最後の逢瀬

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「なあに、彼女は至って善良な一般人さ。間違いない。僕についた二つ名に賭けて、心配ないと誓おう」  ……これでは相談ではなく、強迫だな。  どうやら充希は、どうしても俺の目を剥がしたいらしい。まあ、深夜の"逢瀬"だし、意図はわかる。  悟った俺は「……わかりました」と頭を掻いて、"VIP"の要望通り八釼へと電話をかけた。  単独行動が許可されるとは思えないが……まあ、充希は"お伺いを立てた"という事実があれば納得するだろうし、判断は上に任せよう。  充希はドア枠に肩を預け、腕を組みながら大人しく見守っている。  耳元で響いた二度目の呼び出し音の途中で、八釼が出た。  経緯を説明すると、予想通り、沈黙が耳に届く。 (……まあ、だろうな)  最優先されるべきは、"VIP"の安全と存命。  "寝ずの番"なら、言葉通り朝飯前だ。 「すみません、八釼さん」  俺は用意していた言葉で、終いだと漂わせる。 「明日は退院の付き添いと出立の見送りだけなので、俺は夜通しでも支障は――」 『いや、ちょっと待ってくれ』  深く明瞭な声で、八釼が遮る。
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