最後の逢瀬

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「そうか、それは助かる。アレは何処へ行くにも早いからな、彼女を待たせずにすみそうだ。巧人の護衛はどうなった?」 「……俺は家で待機です」 「そう不満がらないでくれ。巧人は働き過ぎなくらいだ。当然の判断だろう。夜明けに備えて眠るといい。では、迎えの馬車がくるまで、暫く時間を潰すとするか」  ご機嫌な背中が、リビングへと消えていく。  本当に大丈夫なんだろうか。八釼のことは信用している。  だがどことなく、彼にしては少々不用意な判断に思える。 (まさか、俺への罪悪感が、あの人の警戒心を曇らせた?)  いや、確かに八釼は人情味のある上司だが、だからといって感情を優先させるなんて愚かな指揮は――。 (……最後の謝罪といい、わっかんねーよ、八釼さん)  大きく息を吐いて、頭を抱え(うずくま)る。  約束の時間。迎えに来た飛行警備車両で飛び立った充希を見送った後も、俺はずっと抱いた疑念を晴らせずにいた。 「栃内が死亡した」と連絡が入ったのは、まだ陽の見えない明け方だった。
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