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俺への気遣い半分、あの人に"好き勝手"された苛立ちが半分、といったところだろう。
「……ふっ」
「んだよ、気持ちわりい」
「いや、悪い」
思わず笑みをこぼした俺に、清が益々苛立ちを募らせる。
「テメ、一発根性入れ直してやろうか」
「遠慮しておく。ちゃんと冷静だし」
ひとつ息を吐き出して笑いを引っ込めた俺は、清に「ありがとな」と礼を告げる。
おかげで少し、肩の力が抜けた。
「……清もわかってるだろ。俺が行かなきゃいけない。ここから先は、全て俺の責任だ。――頼んだぞ」
"もしもの時"は、切り捨ててくれて構わない。そう含めた俺に、清まますます眉間の皺を深くした。
沈黙は了承の証。俺は感謝の笑みを残して、今度こそ扉を開いた。
丸椅子に座する、黒い人影。彼はベッドに横たわるこの部屋の主を、静かに見つめている。
背にした窓外には、赤く色づき始めた空。
「よく来たね、巧人」
謳うように、優美な声が静寂を揺らした。眠る彼女へ配慮した子守唄のようだ。
俺は無言のまま部屋へ踏み込み、扉を閉めた。
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