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顔を上げる。酷く悲しそうな面持ちで、緩く首を振った。
「今度こそ、運命の相手と出逢えたかと思ったんだがね。仕方ない」
「……あれ? なんでお前、そんな平然と――」
(そうだ。ウイルス感染者は数秒後には、身体の"変異"に苦しむ筈で――)
動揺を見せ、眉根を寄せた須崎と俺の眼前。
"犠牲者"の彼は静かに立ち上がり、おどけた様子で肩を竦めた。
「どうやらキミではなかったようだ。話せて楽しかったよ、青年。そして、幸運を」
「な、どういう意味……! ガッ!?」
途端、体液を吐き出して、須崎が地に倒れた。
見えない縄を解こうとするかのごとく、喉を掻きむしる。限界まで開かれた瞳孔には、驚愕と苦痛だけが映っている。
「どうした!? おい! 蓮くん!」
なんだ。一体、何が起こっているんだ。
ただただ苦痛から逃れようと、のたうち回り全身を跳ねさせる須崎。その姿を憐みの表情で見守る、黒の青年。
「蓮くん! れんくん!!」
刹那、須崎が静止した。
空を見つめる、瞳孔が開ききった双眸。半開きの口からは、血液と混じり合った体液が泡をつくって滴る。
――駄目だ。
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