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いつもなら笑顔で迎えいれてくれる彼女は、瞼を閉じ黙したまま、微動だにしない。
「……"アバンチュール"じゃなかったんですか」
「僕は彼女と情熱的な一夜を共にし、美しき花を散らせた。立派な"アバンチュール"だろう?」
「!」
衝動。俺は奥歯を噛み締め、充希に詰め寄っていた。
憤怒に支配されるがまま、その胸倉を乱雑に掴み上げる。
「あんたの排除対象は……っ、"ヴァンパイア"だけだって……っ!」
「そうさ。僕の獲物は、血を求めた"ヴァンパイア"だけだ」
「ならっ!」
「落ち着きたまえ、巧人。だからキミを呼んだんだ」
「!」
紫の双眸がすいと流れる。
視線の先には、バーベナを飾るあの花瓶。
「あれにはこの部屋の全てが録音されているのだろう? それと、カメラはあの壁掛け時計だな」
「! どうして、それを……」
「なあに、立場上いささか敏感でね」
充希が静かに立ち上がる。
「さて、巧人。僕のもとに来たということは、覚悟は出来ているのだろう?」
慈しむような目をしながら、愉悦につり上がる唇。
充希はベッド下から重量感のある布袋を引き出し、俺に差し出した。
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