バーベナの告白

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バーベナの告白

 ベッドの淵に腰掛け、窓の外を静かに見上げる。  真っ暗な漆黒の空には、少し欠けた月と、細やかな星。 『人は死んだら、星になって見守ってくれている』ってどこかで聞いたことがあるけれど、星の光が地球に届くには途方もない時間がかかるみたいだから、今見えているこの中に、私の会いたい人達はいない。  証明を落とした、暗がりの部屋でそんな事をぼんやりと考えていると、控えめなノック音が響いた。  時刻は午前一時二十分。いつもと同じ夜ならば、こんな時間に尋ねてくる人などいない。  でもこれは怪異でも、気のせいでもない。  私はベッドから静かに降りて、扉へと歩を向けた。シャワーを浴びてから再び袖を通したワンピースの裾が、膝に触れては揺れる。  来訪者の姿を思い浮かべながら、小さな深呼吸をひとつ。  扉に手をかけ、いるのかわからない隣部屋の迷惑にならないよう、そっと開いた。  光源のない、暗がりの廊下に溶けこむ、真っ黒な髪。  黒いカーディガンがまた、その存在を闇と調和させている。  彼はいつもと変わらない様子で、にこりと笑みを浮かべた。 「やあ、待たせたね。素敵な夜にお誘いありがとう」
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