バーベナの告白

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「こんな時間にお呼びして、ごめんなさい。充希さん」 「キミが必要としてくれるのなら、いつだって飛んでくるさ」  彼はそう言って、微かな光を孕んだ紫の瞳をとろりと緩めた。 「昼とはまた変わったね。こんなに美しい"夜桜"を独り占めとは、僕はこれからの人生における全ての幸運を使い切ってしまったようだ」  どうやら時間をかけて丁寧に施したメイクは、充希さんの御眼鏡にかなったみたい。  良かった。お世辞だったとしても、今の私に充希さんの言葉は心強い。  礼を告げて、私は彼を招き入れた。警備の人はいつの間にかスーツの人に変わっていたけれど、こちらに背を向け、黙って前を見据えたまま後ろ手に組んで立つだけで、止める気配はない。  扉を閉めた私は、充希さんにベッド横の椅子に腰掛けるよう勧めて、売店で購入しておいた缶飲料を二つ手に取った。 「お茶とコーヒー、どちらがいいですか?」 「おや、ありがとう。ならばコーヒーを頂けるかな」  どうぞ、と手渡すと、彼はプルを開けて一口を飲み込む。 「……素敵な夜に素敵な女性と味わうコーヒーは、格別だな」
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