バーベナの告白

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 充希さんはこんな時でもブレない。それがなんだか、妙に安心する。  もしもここに座っているのが野際さんだったなら、きっともっと深刻そうな面持ちで、眉間に皺を刻んでいたんだと思う。  どうしたら私の手を引けるのかって、必死に考えながら。  それがあの人の優しさで、だからこそ、彼を想うと胸が痛い。  その身を投げ出して、"私"の命を繋ぎとめてくれた人。  ベッドの端に腰掛け、紅茶を飲み込み彼の影を打ち消す。充希さんはそんな私を待つように間を計ってから、「……さて」と切り出した。 「無粋なのは百も承知だが、キミ自身の口から請われる必要があってね。キミは僕に、何を望む?」  調べのように誘う声も、優しい双眸も、きっと既に私の思惑を見透かしているのだろう。  それでも私は、話さなければならない。  私は紅茶をテレビ台に乗せ、「充希さん」と名を呼んだ。  彼を見つめてから、頭を下げる。 「充希さんの血を、飲ませてください」  充希さんは数秒の間を置いてから「……そうか」と呟いた。  落ち着いた声だった。
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