バーベナの告白

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 置いていかれる人と、置いていく人。どちらも知っている彼だからこその、提案。 「……それじゃあ、昔話に、お付き合い頂いてもいいですか?」 「もちろん。あの空が色を変えるまで、ゆっくり楽しもうじゃないか」  全てが変わってしまったのは、両親が"VC"に噛まれて死んでからだった。  五年前、何てことないショッピングモールで起きた通り魔事件。  たまには少し足を延ばして、と父の運転で出かけ、少し遅い昼食を三人でとった後だった。  目当ての店舗を目指し、同じような買い物客でにぎわう通路を歩いていた刹那。平和な喧騒を、女の子の悲鳴が引き裂いた。  反射的に振り返る。が、血相を変えた父が私と母の背を押して「走れ!」と叫んだ。  あまりに全てが唐突すぎて、走るにも上手く足が動かなくて、それでも父に押されるまま足を動かした。 「お父さん、なに――」 「"吸血"だ!」  父が叫ぶ。  吸血? ……"吸血"!  やっとのことで理解が追い付いた私は、真っ青な顔で恐怖に足を止めた母の手をとった。 「おかあさん!」  逃げなきゃ……っ!  前を向いて強く引く。駆けるために足を出す。瞬間、
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