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経験が、彼の命の消失を瞬時に悟らせた。
衝撃に理解が追い付かず、瞬きも忘れた俺の眼前。
「……どうやら幸運の女神は、キミを嫌ってしまったらしい。どうか安らかに」
胸の前で十字を切った青年が、俺へと視線を向けた。
「わからない、って顔だね」
「!」
「まあ、仕方ないさ。なんせ僕がこの国に来たのは初めてだからね。驚くのも無理はない」
言いながら、彼はトランクを開けて小さな小瓶を取り出した。
彼が開いた掌の上で傾けると、真っ赤な錠剤が数粒転がり出る。
見たことのある形状。そうだ。いや、だが、何故彼が。
「っ、それは」
まるで、"VC"に配布される"血性サプリメント"みたいじゃないか――。
俺の意図を汲み取ったように彼は笑顔で首肯して、一粒を指先で摘まんでみせた。
「ご名答。だがこれはただの"血性サプリメント"ではない。僕の血で作った、特別製でね。先程は止血の心配をありがとう。だがこの程度なら……ひとつで充分だな」
掌を口に当て、青年が空を仰ぐ。だが登場時のように鑑賞する間もなく、すぐに俺を捉えた。
迷いのない口元が、ガリガリと音を立てる。
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