バーベナの告白

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 出された食事もほとんど手を付けられず、いつ寝ているのかもよくわからない。  部屋にテレビはなくて、私はただベッドの上で、目を開けて呼吸するだけの存在になっていた。  わかっているのは、自分たちが"通り魔的吸血事件"に巻き込まれ、"VC"に噛まれた両親が死んだという事実だけ。  入院時から対応してくれている心療内科の先生も、看護師も、「ゆっくりでいいですから、頑張りましょう」と励ましてくれるだけで、事件のことは口にしない。  スマホは手元にあったけど、ネット検索はおろか、メールも通話も出来なくなっていた。  ベッドに横になりながら、ただの電子記録媒体となったスマホのアルバムフォルダを開く。  ぽつぽつと点在する、もういない、父と母の姿。  ――もういない?  途端、私は無性に腹がたって、部屋を飛び出した。  勢いのままナースステーションに駆け込むと、何となく記憶にある看護師さんがいた。 「事件のことを教えて!」  看護師さんは何か言っていたけれど、私は初めて言葉を知った子供ように同じ言葉だけを繰り返した。  喉が痛い。けれども、衝動は収まらない。
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