バーベナの告白

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 暫くすると先生が来て、じっと私の目を見た。私も先生の双眸を見据えて、もう何度目かもわからない言葉を告げた。 「事件のことを教えて」  先生は小さく頷くと、私を診察室へ促し、私の求めるまま事件の詳細と犯人の顔を教えてくれた。  若い、男だった。  銀の髪は耳を少し隠す程度に短く、スーツを着込んだ姿は"VC"であるという点を除けば、平凡な風貌だった。  横浜市内に勤務する会社員だという。  いたって真面目で、人付き合いも良く、とても"吸血事件"を起こすような人には思えなかった。  周囲はそう口を揃えて、驚いていると。 「まず、栃内さんは生きてください」  先生が諭すように言う。 「それがあなたをその身を呈して守った、ご両親の意志です。犯人への復讐心でも、なんでも構いません。とにかく、今は生きてください」  ただし、と。先生はモニターに映された男へと視線を流した。
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