バーベナの告白

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 理由はなんであれ、雇ってもらえるのなら関係ない。ともかく働き口を確保した私は、家を探し始めた。  家賃が安くて、それなりに安全そうなアパート。そうして見つけたのが、鐘盛さんのアパートだった。  空いていた部屋は、大家である鐘盛さんの隣。そういう事情もあったから、鐘盛さんはよく気にかけてくれたんだと思う。  朝の挨拶から始まり、食事の差し入れやらお菓子のお裾分け。  体調不良になれば看病をしてくれて、弱音や愚痴を聞いては、「しっかりなさい!」と背を叩いてくれた。  気付けば休日には鐘盛さんの家で一緒にご飯を食べ、共に出かけるようになっていた。  鐘盛さんと一緒いると、妙に心が安らぐ。  張り詰めていた糸が緩んで……知らずに忘れていた、父や母と過ごしていた時の感覚。 「あの、鐘盛さん。私、迷惑じゃないですか?」  アパートに越してきて二年目の大晦日。鐘盛さんの家で炬燵(こたつ)に入りながら、私は世間話のように切り出した。  対面で、ミカンを剥いていた手が止まる。  けれどもそれはほんの一瞬で、鐘盛さんは顔を上げずに言った。
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