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「迷惑をかけいるのは、あたしのほうよ。図々しくもね、紗雪ちゃんのこと、娘みたいに思っちゃってるの」
「え……?」
「ごめんなさいね。嫌だったら、ちゃんと言ってちょうだい。でもそうでないのなら、これまで通りお節介を許してくれると嬉しいわ」
鐘盛さんは剥いたミカンの半分を皮の器に乗せて、私に「はい」と寄こした。
「あら、もうすぐ除夜の鐘ね」
テレビを見遣って、鐘盛さんが笑む。
こんなに沢山を共に過ごしているのに、鐘盛さんが私に過去を尋ねたことはない。
どうして越してきたのか、どうして一度も、家族に会いに行かないのか。
今だってそうだ。訊こうと思えば訊けるだろうに、ワザと話を打ち切る。
語る必要はないと、示してくれている。
――私のために。
「……鐘盛さん」
私はミカンをひとつ頬張って、心を決めた。
「私の話を、聞いてくれますか。こんなおめでたい時に話す内容じゃないと思うし、そもそも上手く説明できる自信もないんですけど……」
誰にも話す気はなかった。打ち明ける必要も、ないと思っていた。
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