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でも、私を"娘"と言ってくれたこの人には、全てを知って欲しいと思ったから。
除夜の鐘が響きだす。鐘盛さんはそれでも私を見つめて、瞳をゆるりと和らげた。
「……ゆっくりでいいから、聞かせてちょうだい」
「なるほど、そうしてキミ達は"家族"になったのか。そして彼女が、キミをこれまで生かした」
穏やかながらも的確な充希さんに、私は小さく苦笑を浮かべて「そうですね」と首肯した。
「このとき私は初めて、心から"生きよう"と思えました。ずっと、いつになったら両親は許してくれるのかと、そればかり考えていましたから」
父と母はその身を壁にして、私を守った。「にげて」と絞り出した母の声を、何度夢の中で繰り返したか。
戒めだと思っていた。追いたい気持ちを捨てきれないでいる、娘への。
けれど私には、そこまでして生かされる意味がよくわからなかった。
だって、心はとっくに死んだから。
臓器だけを動かす生に、何の意味があるのか。
「……ならば」
充希さんの瞳が、私を映す。
「なぜ、キミは僕の血を求める」
月明りを瞬かせる、宝石みたいな双眸。
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