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勝手な安堵に達成感を感じつつ、私は席を立ちながら彼女の待ち人へ視線を遣った。
刹那、息が止まった。
彼女が愛おし気に笑いかける先には、真っ白で、真っ黒な男。
彼女と同じか、少し上くらいの若い男。否、"VC"は一度外見が若返るから、実年齢はもっと上なのかもしれないけど……そんなことは関係ない。
若い男の"VC"。足元から血が逆流して、心臓を凍らせる。
どうして、そいつは、なんであなたが。
溢れる疑念と混乱、フラッシュバックする、あの日の惨劇――。
「っ!」
瞬間、グラスが倒れた。音に思考を切った私は、慌ててグラスを立ち上げる。
幸い、トレーの上で倒れてくれたので、周囲に被害はなかった。
音に気付いたのだろう、店員さんが「大丈夫ですか?」とおしぼりを持って来てくれたので、私は「すみません、平気です。ごちそうさまでした」と逃げるようにして店を出た。
わかってる、"彼"はあの男じゃない。
差別や吸血衝動に苦しみながら、それでも必死に"輸血"で生きる"VC"も沢山いる。
彼もきっとそう。だってほら、証拠にあの子はあんなにも幸せそうに――。
「…………え?」
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