バーベナの告白

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 一瞬だった。開いた口から覗く鋭利な牙が、細く滑らかな彼女の首元に埋まる。  流れ落ち伝う赤い雫。彼女が崩れ落ちるとほぼ同時に、誰かの悲鳴が轟いた。 「――吸血鬼っ!」  気が付いたら、走り出していた。混乱に乱れクラクションを鳴らし右往左往する車体を抜け、彼女を捨てて逃げだした白くて黒い男を追った。  許さない、許さない。ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない……っ!  彼女の幸せを奪ったのも、父と母を殺したのも――私を、噛まなかったのも。 「キミを、噛まなかった」  静かに耳を傾けていた充希さんが、確認するように語る私の言葉を繰り返した。  私は首肯する。 「あのとき私も噛まれていれば、一緒に逝けたのに。……だってね、充希さん。今って子供はもちろん、宗教団体や芸能人にだって"VC"がいるじゃないですか。私の憎しみはちっとも薄れてくれないのに、ふと見渡せば彼らはどこにでもいて、楽しそうに笑っているんです。……地獄ですね。彼らも被害者だと頭では分かっていても、感情は、コントロールできるものじゃないですから」  何度も必死に繰り返した。彼らも、可哀想なヒト達なのだと。
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