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「きっとあの男も、私に叱責されると思ったんでしょうね。あともう少しで追い付くって所で声を上げたら、『うっさいなあ』って嫌そうな顔をしてすぐに噛んできましたから。……噛まれた瞬間、鐘盛さんの姿が頭に浮かびました。あんなによくしてくれたのに、裏切っちゃったなって。でもね、充希さん。私、確かに幸せだったんです。あちこち痛くて、息が出来ないくらい苦しいのに、幸せだったんですよ」
だから鐘盛さんを思い出したのだ。"置いていった"両親ではなく、"置いていく"彼女を。
きっと悲しむだろうから。きっと、傷を負うだろうから。かつての私のように。
けれど同時に、鐘盛さんなら理解してくれると思った。甘えたのだ。つまり。
彼女の与える無償の愛を幼子のように享受しながら、私は全てを切り捨て、逃げ出した。
この世界から抜けだせたのだと、思ったのに。
「終わったつもりがまた、生き残ってしまった。それだけでも絶望的なのに、心底嫌悪している"VC"になっているなんて……。"罰"、だと思いました。両親や鐘盛さんの愛を裏切って、一人だけ楽になろうとしたから、罰が下ったのだと」
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