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私はそっと掌を開いて、視線を落とす。
「真っ白な手……。いまだに、自分の身体だとは思えないんです。目覚めて最初にこの手を見て、ああ、"私"はもういないんだ。この身体で息をしているのは、"私"じゃない"誰か"なんだって感じました。この眼を通して見えるものは全て、その"誰か"が見ている景色。この身体に何が起きようと、"私"には関係ないって」
そこまで話して、私は思い当たった違和感の正体に気づき、思わず「ふふっ」と笑みを零した。
「なんだか懐かしい感じがすると思ったら、前に、同じような話をしてましたね」
すかさず充希さんが、穏やかに首肯する。
「ああ、確か僕たちがこの部屋を訪れた、二度目の時だ。キミは言った。"私は私"だと。思考も、感情も、その身体で得るも失うも、全部"私"次第なのだと。僕はね、その言葉を聞いて確信したよ。キミは僕を頼ってくると。そう、まさに今夜を予感したんだ」
やっぱり。充希さんは、初めから気づいてた。
「充希さんって、けっこう意地悪なんですね」
「おや、嫌われてしまったかな?」
「いいえ。けれど……私は良くても、野際さんは、怒るような気がします」
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