バーベナの告白

24/29
前へ
/254ページ
次へ
「楽しみだと感じることが出来たのも、死ぬと決めた私だからです。充希さん、私ね。この身体になってから、自分の姿もろくに見れないんです。鏡に映る"VC"を見るたび吐き気がして、呼吸さえ疎ましくなって……この手で首を絞めてしまいたくなるんです。そんなんじゃ死ねないって、わかってるのに。だからお願いして、洗面台にある鏡に目隠しをしてもらいました。"VC"になった、自分の姿を見ないように」  でも、と。  私が洗面台へと視線を流すと、充希さんも追うようにしてその先を確認した。 「……目隠しを、とったようだね」 「今日は特別な日ですから。だって、身寄りのない私に葬式はないでしょう? "死化粧"は自分でしなくちゃ。それにきっと、野際さんは"死後"の私を見るでしょうから。その時に、少しでも伝わってくれればいいんですけど。――私にとってこの"死"は、こんなにも"幸せ"なんだって」  鐘盛さんと出会わなければ、充希さんと野際さんが、会いに来てくれなければ。  私はきっと、その身を奈落に投げ捨てたまま、人知れず心臓を引き裂いていたに違いない。
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加