バーベナの告白

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「キミのように美しい人が"アモーレ"になってくれたなら、僕はこの先死ぬまで、世界一幸福な男だっただろうに」  いつものごとく、冗談交じりの笑みを浮かべる充希さん。  どうやら彼は許してくれたらしい。悟った私は、「ありがとうございます」と口元に手を寄せて笑う。  と、充希さんがカーディガンの内ポケットに右手を入れ、黒いケースを取り出した。  一見、リップバームやハンドクリームが入っていそうなそれの蓋を開けると、指先で小さな球体をひとつ摘まみだす。 「これは僕の血清を基にした錠剤だ。"マリア"と呼んでいる。口に入れるとまず表面の睡眠薬が溶け出し、深い眠りにつく。眠っている間に今度は麻酔薬が舌から喉を通って、全身の痛覚を麻痺させる。これで準備完了だ。最後はお待ちかね、僕の血清が溶け、キミは深い眠りに落ちたまま痛みもなく、死出の旅路へ出立。レシピは極秘。運に選ばれ、"N"として再び目覚める可能性もあるが……ほぼほぼゼロに近い確率だ。なんせ、DNAレベルでの改変をまた行うわけだからね。期待はしないよう、お勧めするよ」  飴玉より小さなそれが、掌にコロンと落とされる。
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