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綺麗な赤色、なのだろう。おそらく。
月明りと夜の色が重なって、充希さんの瞳に似た、深い紫色に見える。
不安は、ない。むしろ穏やかだ。
――この子が私を、連れて行ってくれる。
私は愛おしさから、それを胸に抱きしめた。薄く息を吐き出して、両足をベッドに上げる。
充希さんはベッド横に移動して、毛布を持ち上げてくれた。
私は上半身を捻って、テレビ台に置いていた封筒を手に取り、充希さんに差し出す。
「これ、私の遺言書です。どのくらい効力があるのかわからないですけど、死後にお願いしたいことが書いてあります。警察の方に渡して頂けますか」
「ああ、確かに受け取った。僕からも便宜を図ってくれるよう、頼んでおこう。どこまで効力があるか、わからないけどね」
「ふふ、お願いしますね」
スカートの裾を直してから、上体を倒して枕に頭を乗せる。
充希さんが腰から下に、そっと毛布を掛けてくれた。
「何から何までお世話になってしまって、ごめんなさい」
「いいや。最期のアバンチュールを楽しませて貰った礼さ。……もう、いいのかい?」
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