28人が本棚に入れています
本棚に追加
「はい。お時間頂いて、ありがとうございました。私も、凄く楽しかったです」
掌から"マリア"を摘まみあげて、目の前にかざす。
「……赤い実を食べて死ぬなんて、なんだか白雪姫みたい」
「だが、その実は王子の到着を待ってはくれないよ」
「優秀なリンゴさんですものね。せめて彼女みたいに、綺麗な姿で死ねるといいのだけど」
さあ、これで本当に、終わり。
大丈夫、忘れ事はないと頭の中でチェックリストに印をつけて、私は充希さんを見上げた。
「充希さん」
「なんだい?」
「充希さんは、初めから気付いていたんですね。だから、私にバーベナを」
窓際から静かに見守る、この唇と同じ色をしたバーベナは、日に日に花を散らし、そろそろ寿命を迎えるだろう。
「充希さんの言ったとおり、あの花は私にピッタリの花でした。だってあの花の……ピンクのバーベナの花言葉は――『家族の和合』」
充希さんは肯定するように、とろりと瞳を和らげて頷いた。
不思議な人。でも畏怖より、安心感の方が強い。
黒を背負って死を届けにくるのは死神だけれど、彼は黒に好かれた、救いの天使。
最初のコメントを投稿しよう!