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充希の指摘は正しい。確かに俺も、上も、誰一人として充希を"取り調べ"ようとは考えなかった。
とはいえ、"訊かれるまでは話さない"と決めたのは充希だ。意図的だろう。
俺は苛立ちを微塵も隠すことなく、充希を睨んだ。
「彼女の未来を思案する俺は、さぞ滑稽だったでしょう。お得意の話術でいいように話しを合わせておいて、腹の中で笑ってたんですね」
「いや、それは違うさ。確かに僕は、彼女が死を望んでいると察していた。そして彼女は運悪く生き残ってしまった。美しく善良な"VC"としてね。巧人も覚えているだろう? 僕らが初めてこの部屋を訪れた日を。彼女にあてがわれた現実は、あまりに残酷だった。だから僕は教えたのさ。"僕"の存在をね。だが、あくまで教えただけだ。素性の知れない相手の夢のような甘言を信用し、こうして本当に死を決断するかどうかは、僕にも最期までわからなかったさ。それこそ彼女が"ヴァンパイア"と化すその瞬間まで、僕ではなく巧人の手をとり、新たな"生"を歩んでいく道があったのだから」
それに。充希は、ほらとでも言いたげに、指先で宙に丸を描いた。
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