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「とんでもない。僕が望むのは、あくまで対等の関係だ。そうでなければ意味がない。僕が見たいのは、巧人と同じ"世界"なのだから。キミが愛玩動物と成り下がったその時は、僕は躊躇いなくこの手を離し、キミのもとを去る。つまりだね、これまでの"生"における最大限の敬意と愛を持って、キミにこの手をとってほしいと懇願しているのだよ」
「…………」
この人は、唯一であるその名を背負って戦うことに、疲れてしまったのだろう。
そうでなければ、こんな小さな島国で偶発的に出会った俺なんかに、固執するはずがない。
俺は目だけで、ベッドで横たわる栃内を見遣った。
口角が薄く上がったバーベナ色の唇。まだ柔らかさを残した頬は和らぎ、苦痛も絶望も、悲愴も伺えない。
その姿はまるで、幸せな夢に浸っているかのような。
(――ああ、ムカつく)
俺は思わず目元を覆った。
そうだ。俺はずっと、この表情を求め続けていた。
生きることが"正義"じゃない。地獄は、この世の至るところに存在する。
彼らが苦痛からの解放を、"救済"を望むのなら――せめて、この世から離れる最期の瞬間は、誰よりも幸せに。
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