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「祖父は心優しい男だった。村の小さな教会で、その日の食べるモノすら手にできない者たちに、ある時はパンを、ある時は薬を、ある時は仕事を与えていた。よく愛し、愛されていたよ。だが彼は"救済"に心酔しすぎた。心美しき弱者に力を。祖父を慕っていた子羊達は、禁忌を犯した"救済者"にウイルスを投与され、ほとんどが死んだ」
「そん、な……。"V-2"は人工ウイルスではないって、世界のどの国もが認めて――」
「それはそうさ。なぜなら世界中のあらゆる研究者の知能をもっても、"人"の力だけでは再現しきれないのだよ。つまりだね、祖父は神のごとき"奇跡"を起こしたのさ。不運にもね。そして彼の得た奇跡は、もうひとつ」
充希がとん、と自身の胸元を指さした。
「僕の血に、"ゼロ-ウイルス"を生み出した。……そのつもりはなかったようだけどね。それこそ本当に、"神"の与えた奇跡だったのかもしれない」
ともかく、と。充希はベッドで眠る栃内を見遣った。
「僕は始まりを知っている。そして、終わらせる力を与えられた。血族の犯した罪は、僕が清算せねばなるまい」
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