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軽い調子でウインクを飛ばしてみせた充希に、俺はますます眉根を寄せる。
これは俺への"牽制"だ。
充希は上の意図も理解したうえで、"マリア"の提出を拒否した。
つまり今後、上がいくら俺を通して"マリア"の提出を求めようと、応じる気はないという意思表示で――ん?
「気づいたかい? 巧人」
含みを持たせた瞳が、毒を瞬かせ三日月を描く。
「その"マリア"は巧人のモノだ。好きにしたらいい」
「……念の為の確認なんですが、俺がこの"マリア"を上に引き渡そうと、異議はないと?」
「ああ、もちろんさ。巧人にとってそれが最善ならば、そうすればいい。自分に使うでも、誰かに使うでも、キミのボスに引き渡すでも、選択はキミの自由だ。なんせキミが"マリア"を所持していると知っているのは、この世で僕ただ一人だからね」
優越感。それと、無責任に賽を振る、ある種の狂気を孕んだ興奮。
それらをない交ぜにしたような笑みで、充希は俺を見つめる。
腹立たしい。退屈凌ぎにしては手の込んだやり方で、俺は"ヴァンパイアキラー"の愉しい玩具にされている。
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