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そうして彼は悠然と微笑んだ
「……お久しぶりね、相談屋さん」
二階建てアパートの上階。外階段を上がってすぐの扉を開けて、鐘盛が俺達を中に招き入れる。
四角い座卓に正座して、茶を振舞ってくれた鐘盛が腰を落ち着けたのを確信してから、俺は抱えていた、紫の風呂敷に包まれたそれを机上に乗せた。
鐘盛は、数秒の躊躇いを振り切って、俺に微笑んだ。
「……これが、あの子なのね」
「……力及ばず、申し訳ありませんでした」
容態が急変し、栃内さんが死にました。
そう伝えた電話口で、俺は鐘盛に彼女の遺体が司法解剖に回されることを説明した。
搬送前に会えるのは、栃内の法的な家族だけだと。
鐘盛は、「そう」と呟いた。「そうでしょうね」と。
あの時もきっと、今のような表情をしていたのだろう。
諦めと悲しみと、慈愛をない交ぜにしたような、哀しい笑み。
――会わせてあげたかった。
悔しさに拳を握った俺に、鐘盛は「いいのよ」と首を振った。
「肉親でもない私が、こうしてこの子をまた迎え入れることが出来たのだって、あなた達が警察相手に食い下がってくれたからでしょう? 感謝してるわ」
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