そうして彼は悠然と微笑んだ

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 幼子の頬に触れるような眼差しで、鐘盛が風呂敷の結び目を解く。  現れた白い骨袋に、皺の深い掌が重なった。 「……おかえりなさい。こんなに小さくなっちゃって」  悲哀の滲む目尻から、涙がほろりと零れ落ちた。  ほろほろ、ほろほろ。風に吹かれた桜の花弁のごとく、雫は生まれ、落ちていく。 「っ、ごめんなさい」  止まらぬ涙を何度も指先で拭う鐘盛に、「ああ、ほら。こすっては駄目だよ」と充希がティッシュボックスから一枚を引き抜き、その手に握らせた。  鐘盛の背を撫でながら、充希がちらりと俺に視線を寄こす。 (……わかってますよ)  ここで(ひる)んで、お終いになんてしない。  だってこれは、栃内の意思だ。  この願いはきっと、"置いていかれた"彼女をさらに傷つけると――"呪い"を刻んでしまうのだと。  わかっていても、死者の願いを握りつぶせてしまえるほど、俺は優しくない。 「……鐘盛さん」  涙に溺れた彼女の目が、向く。俺は鞄を開いて、取り出したそれを机上に置いた。  途端、鐘盛の双眸が驚きに見開く。 「それは……!」
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