そうして彼は悠然と微笑んだ

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「栃内さんのスマートフォンです。栃内さん、自分に"万が一"のことがあったらと、遺言をしたためていたようで……。その中に、このスマートフォンを鐘盛さんに渡してほしいとの記載があったそうです。……ここには、あなたとの日々が収められているからと」 「――っ!」 「それと、もうひとつ」  俺は桜の絵が印刷された小さなメッセージカードを、スマートフォンの隣に置いた。  そこに文字はなく、代わりに中央には――。 「――さくら」  呟いたのは鐘盛だ。  カードの空白に、テープで張り付けられた桜の花弁が一枚。  俺には、俺たちにはわかってしまった。  この花弁はあの時……三人で花見をした時に、充希が栃内に渡したものだと。  彼女の見た、最後の桜。  押し花にしたのだろう。  あの日より少し()せた色味のそれを、鐘盛は震える手で「……馬鹿ねえ」取り上げ、
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