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「電話でね、あの子……アタシに謝ったのよ。今年も一緒に桜を見にいこうって言ってたのに、約束守れなくて、ごめんなさいって。だからね、桜なんて何年先でも咲くのだから、いつかまた行ける時に行けばいいわよって……なんならその時に、旅先で見たいろんな桜を教えてちょうだいって……アタシ、そう言ったの」
涙を再び溢れさせて、鐘盛が桜のカードを掻き抱く。
「桜なんて、どうだってよかったのよ。こんな……"約束"を守ってくれたって、アナタがいなければ、意味がないでしょうに――」
しゃくりあげる鐘盛の背を、充希が優しく撫でる。
その光景は巧みに彩られた絵画のように美しい――が、その実情は、奪った者と奪わわれた者による、なんとも残酷な慰めの画だ。
俺は告げる気のない真実を胸中で握りつぶし、自身が刻んだ傷を目に焼き付ける。
――願わくは。どうか彼女に、幸あらんことを。
身勝手に祈るのは、紛れもなく俺ひとり。
白に眠る彼女に、もう、声はない。
***
「――邪魔するぞ」
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