そうして彼は悠然と微笑んだ

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 勢いよく開かれた事務所の扉から、我が物顔で"VC"の青年――もとい、私服姿の清が踏み込んでくる。  シンプルなペールブルーのインナーに襟付きのシャツを羽織り、細身のスラックスを合わせた出で立ちは、国に忠誠を誓う猟犬というより、自由を謳歌(おうか)する学生のように見える。 (まあ、だからこそ、こうして堂々と"ウチ"に出入り出来るわけだけど) 「おや、キミは……!」  すっかり住処(すみか)と化しているソファーで寝転んでいた充希が、小説本を伏せ置いてがばりと起きあがった。 「先日は実に世話になったね、アルタイルの(きみ)。それにしても、こうしてキミの方から訪ねてきてくれるなんて、とうとう僕の気持ちに応えてくれる気になったと――」 「違います。無理です」  歩を止めることなくスパっと言い切った清は、肩を落とした充希を一瞥(いちべつ)もせずに、まっすぐカウンター席に向かってきた。  椅子を引いて腰を落とす。 「コーヒー」 「はいはい……」  カプセルを引き出しから取り出して、来客用のカップをセットした俺は、少し首を伸ばして、 「充希さんも、そろそろおかわりいります?」
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