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「いや、まだ大丈夫だ」
頷いた俺はコーヒーに満たされたカップをソーサーに置いて、清の眼前に置いた。
それからああ、と思い出して、戸棚から取り出した包みを二つほどコロコロとソーサーに乗せる。
「んだコレ?」
「チョコ。清、甘いの好きだろ」
「なんだって?」
途端に充希が声を上げ、
「いやはや、驚いた。何を隠そう、僕も甘い菓子が大の好物でね。僕の母がよく言っていたよ。長い時を共にするには舌の相性も重要だと」
つまり、と。
両手を広げた充希は瞳を期待に輝かせ、
「キミと僕の相性は、天のお墨付きだ。なに、今からでも遅くはない。僕の"アモーレ"に――」
「無理です」
ぬう、と自身の胸元をおさえて、弛緩した充希がソファーに倒れこむ。
(……やっと静かになったな)
ひと区切りの気配に、俺はカウンター下から親指の爪先ほどのプラスチックケースを取り出した。
指先で滑らせるようにして、清の眼前に置く。
「遺品の受け渡しも問題なく済んだ。この間の報告書も、全部あがってる」
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