そうして彼は悠然と微笑んだ

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 ケースの中に入ってるのは、栃内が死ぬ前日から鐘盛に遺品を受け渡した日までの、"隊員"としての報告書だ。 「……しょーもねー書き方してやがったら、ぶっ飛ばすかんな」 「ちゃんと真面目に書いてるって」  苦笑交じりに肩を(すく)めた俺を、剣呑な赤い双眸が見定めるようにして()め上げる。  その(かん)、ほんの数秒。清は納得したようにフンと鼻を鳴らして、摘まみ上げたケースをベルト裏へ収めた。 「……首なんてやらせやがって。腑抜(ふぬ)けてんじゃねえよ」 「あー、あれは自分でやったやつだし、もう治ったよ」 「んなの見ればわかんだよ。つーか本気であんなヤツに切られたってんなら、俺がその首にトドメをさしてやる」 「ええ……」  無茶苦茶な。だが清らしいというか、なんというか。  ともかく、心配させてしまったようだ。   「……ありがとな」  小さく礼を告げた俺に、清はカップの淵を持つようにして、コーヒーをごくりと飲みこむ。 「にしても、わざわざ清が取りにくるなんて、珍しいな?」  通常、報告書のやり取りはドローンに任せている。
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