28人が本棚に入れています
本棚に追加
「――おい」
伸びてきた掌が、俺の胸元を掴んで引き寄せた。
「……アイツにあまり、近づき過ぎんじゃねーぞ」
「……え?」
「帰る」
パッと手を離した清が、ポケットに指先をつっこんで扉へと歩いてゆく。
「――まっ、清!」
「んだよ」
「えと……」
どういう意味だ。
そう尋ねたかったが、訊いたところで清はきっと教えてくれないだろう。
「――決めた! これがいい! さあ待たせたなアルタイルの君。この選びに選びぬいた至極のバームクーヘンが、キミと僕とを結ぶ運命の盃に――おや、お取込み中だったかな?」
こてりと小首を傾げる充希に、清が「帰ります」と短く告げる。
「なんと……僕としたことが慎重に慎重を期したがために、時間をかけすぎてしまったかな。せめてもの詫びだ、共にカップを傾けることは叶わなかったが、僕の愛の証としてこのバームクーヘンだけでも連れて行ってあげてくれ」
「……はあ」
気だるげな返事にも関わらず、充希は「そうか! 受け取ってくれるか!」と目を輝かせて嬉し気に駆け下りてきた。
面倒くさそうにしながらも、小袋を受け取る清。
最初のコメントを投稿しよう!