そうして彼は悠然と微笑んだ

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「――おい」  伸びてきた掌が、俺の胸元を掴んで引き寄せた。 「……アイツにあまり、近づき過ぎんじゃねーぞ」 「……え?」 「帰る」  パッと手を離した清が、ポケットに指先をつっこんで扉へと歩いてゆく。 「――まっ、清!」 「んだよ」 「えと……」  どういう意味だ。  そう尋ねたかったが、訊いたところで清はきっと教えてくれないだろう。 「――決めた! これがいい! さあ待たせたなアルタイルの(きみ)。この選びに選びぬいた至極のバームクーヘンが、キミと僕とを結ぶ運命の(さかずき)に――おや、お取込み中だったかな?」  こてりと小首を傾げる充希に、清が「帰ります」と短く告げる。 「なんと……僕としたことが慎重に慎重を期したがために、時間をかけすぎてしまったかな。せめてもの詫びだ、共にカップを傾けることは叶わなかったが、僕の愛の証としてこのバームクーヘンだけでも連れて行ってあげてくれ」 「……はあ」  気だるげな返事にも関わらず、充希は「そうか! 受け取ってくれるか!」と目を輝かせて嬉し気に駆け下りてきた。  面倒くさそうにしながらも、小袋を受け取る清。
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