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「……この島は五年前に建設されたんですが、今いる住人の九割は"VC"です。治療薬はない、差別も根強い。そんな中、"VC"の不満が爆発する前にと政府が立案しましてね。当時から"夢と平等"を謳っていた浦安市長が、建設地として立候補されたそうです」
「だが、既にこの地に根を下ろしていた"N"からは、反発があっただろう?」
「それは、はい。いくら新設の人工島とはいえ、目と鼻の先に"VC"が集まるなんてと出ていく方々も多かったそうですよ。ですが結果として、抜けた所には"VC"、または理解のある人々が集まりましたからね。国からの補助金も出ていますし、市の成長戦略としては大成功だそうです」
彼は「それは素晴らしい」と手を叩いて、
「"彼ら"は自己治癒力が高く、おまけに長寿だからね。このままだといずれ、"VC"が過半数を占める世界になってもおかしくはない。その市長は"N"かい?」
「ご本人は"N"ですが、ご家族に"VC"が」
「なるほど。"不幸中の幸い"というやつだな」
納得したように頷いた彼は、椅子を引いて腰掛けると、緑茶をすすった。
「うむ、懐かしい味だ」
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