そうして彼は悠然と微笑んだ

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 どちらも俺と彼だけが知る、最強にして最悪の"兵器"だ。 「それよりも巧人。さきほど彼へ最善の贈り物を選ぶにあたって、おしくも王座から転げ落ちた哀れなバームクーヘンがここに二つあるのだが、ここは彼らが悔しさから塩辛くなってしまう前に、"救済"してあげるべきだと思わないかい?」 「……わかりました、お皿だします。コーヒーは淹れ直しますか?」 「さすがは僕の親愛なるパルトネル。キミの心こもったコーヒーを配管にくれてやるには惜しすぎる。まってくれ、今すぐこのカップを空にしてみせよう」  瞬時にソファー前のローテーブルへ移動した充希は、マグカップに残るコーヒーを一気に飲み干した。  俺はその間にカウンターへと戻り、戸棚から皿と新しいマグカップを取り出す。  好みを聞くのは、ずいぶん前にやめた。適当に選んだ黒いカプセルをコーヒーサーバーにセットする。 「ああ、そうだ巧人」  空のマグカップを手に、充希がカウンター席に腰掛けた。  俺は受け取ったカップをシンクに置きつつ、「なんですか?」と視線を遣る。
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