望まぬ会遇

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 男の足下には、首元を抑え(うめ)く女性。男は彼女など存在していないかのごとく、宙を見上げて口元を拭った。 「あー……んだよ。こんなにうめーなら、もっと早く"生き血"を吸っとくんだったわ。あんなショッボイ"人工血液"なんかじゃ、満足出来るワケねーっての」 (……予想的中、だな)  "吸血鬼化(ヴァンパイア)ウイルス"。通称、"V-2"。  八年前、イタリアのとある田舎村で、貧困者を救っていた慈悲深い神父が感染し、以降、世界的に拡散した『遺伝子変異』を引き起こすウイルスだ。  感染者に噛まれると発症し、驚異的な速度でDNAへの変化を引き起こす。そして感染者の多くは急激な変異に身体が耐え切れず、その場で絶命してしまう。  生存確率は三割。感染者は驚異的な細胞組織の活性化に伴い、十代から二十代半ば程度へと若返ったうえで、三桁を(ゆう)に越す長寿や興奮時における怪力など、超人的な身体能力を手に入れる。  肌の色は白く、瞳は赤。髪は月光を飲み込んだような、美しい銀の色。そして"ヴァンパイア"と付けられたその名の通り、"吸血衝動"が生まれる。
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