バーベナの目覚め

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「今時そんな古典的なことする人いるとは思いませんでした」  殆どの機能が使われることなく、一晩でお役御免となった電子レンジに想いを馳せる。  今頃、"部下への融資"という名目で真新しいレンジと交換されているのだろう。報告を受けた八釼も、眼を丸くしているに違いない。  そんな裏方事情など露知らず、充希は幼子のように頬を膨らませて立ち上がった。 「さすがの僕でも、こんな愛らしい子犬で卵と牛乳を温めようとはしないさ」  うん、まあ、それはそうでしょうとも。  俺が言っているのは、そういう事ではない。  けれども説明するのも面倒なので、俺は気に入りのMA-1のポケットからスマホを取り出し、 「行きましょう。ただでさえ短い面会時間が、更に短くなります。"チロ"、案内してもらえるかな。患者の名前は――」 「栃内紗雪(とちないさゆき)さん、ですよね。初めまして」  他の職員と同じく、"VC"である警備員の横。重厚な個室の引き戸から顔を覗かせると、ベッドの背を少し上げていた彼女が驚き眼でこちらを見た。
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