バーベナの目覚め

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 結果オーライ、と思っておこう。下手に勘ぐられるより遥かにマシだ。 「うむ、笑った顔は一段と美しいな! どうだい、やっぱり僕の"アモーレ"に……」 「はい、そこまでにしておいてください。すみません栃内さん。まだ目が覚めたばかりだというのに、付き合わせてしまって……」  栃内が首を振る。 「いえ。むしろ、ありがとうございました。……目が覚めたら、目に映るもの全てが真っ白になっていて、自分が自分じゃないような気がしてたんです。お二人のおかげで、あ、やっぱり私だって思えました」  伏せた瞼の奥に、複雑な光。  いま、彼女が望む言葉なんだろう。憐みか、慰めか。  慎重に観察しながら再び椅子に腰を下ろし、思考を巡らせる。  ほんの数秒間の出来事だ。いつもならなんてことない、むしろ、こちらの戸惑いを演出する為にも、必要な"溜め"になるというのに。 「"V-2"の有無が影響を及ぼすのは、身体の変化のみだ。心は変わらない。現状に何を思ったとて、それは紛れもないキミ自身の声だよ」 「っ」  充希の発言に、栃内が「……そうですね」と首肯した。
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