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片腕を抱き込む仕草には、底知れない未知への恐怖が見て取れる。
無理もない。"N"による"VC"へ嫌悪は、根強い。
これまで築いてきた日常も、思い描いていた未来も奪われ、命尽きるその日まで戦い続けなければならないのだ。
偏見、差別、経験したことのない、血への渇望。
恐れるなという方が、無理がある。でも。
――俺は彼女を、生かしたい。
「……栃内さん、これを」
俺は内ポケットから名刺を一枚取り出し、彼女に差し出した。
反射のように手を浮かせた栃内が、瞳に疑問を浮かべる。
「……名刺?」
「ここに私の事務所と、電話番号が書いてあります。……少し悪い言い方になりますが、こうして出会ったのも何かの縁です。頼ってください。困りごとは勿論、ちょっと誰かと話したくなったでも、寝つきが悪い時でも」
「ほう、巧人も隅に置けないな。中々熱烈なお誘いじゃないか」
「は?」
「"眠れない夜に電話して"なんて、なんともロマンティックで美しい。互いに囁きながらワイングラスを片手に、同じ月を飲むのかい?」
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