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「それはいい! 良ければそれは一体どんな料理なのか、教えてくれないかい? どんな悪人でもそれを口にすれば涙するという、魔法の食物だと聞いていたのだが……」
(……やっぱり食べたかったんじゃないか)
充希が余計なことを言わないよう、耳に届く楽しげな会話を注意深く聞きながら、白磁の花瓶を軽く洗う。
信用していないわけではないが、過信は己を殺す。おまけに彼はつい先ほど"やらかした"ばかりだ。慎重なくらいで丁度いい。
ポケットからハンカチを取り出し、花瓶の表面についた水滴を拭う。試しに花瓶に挿してみると、元よりこの病院で販売していただけあってちょどよく収まった。
一度花を抜いて花瓶に水を溜めてから、もう一度挿す。簡単にバランスを整えて、完成だ。
「……出来ましたよ」
花瓶を手に水場から離れた俺は、元あった窓際へそれを戻した。
「おお、これは見事なもんだ。ありがとう、巧人」
カツ丼トークを切り上げ、充希が笑む。
栃内は「すみませんと」恐縮しながらも、「でも本当に、綺麗」と双眸を緩ませた。
殺風景な白い部屋に映える、鮮やかなピンクの花弁。
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