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「巧人、重要なことを忘れているな」
さながら教壇に立つ教師のように、充希が人差し指を左右に揺らす。
「言ったろう。僕の血は彼らを惹きつける。即座に血を掃わなければ、新たな犠牲者を出すまでだ」
そうか。だから充希は即座に傷を治癒した後、自身に残った血も綺麗にハンカチで拭いとり、密閉袋にしまい込んでいたのか。
芳醇な血の香りに誘われた新たな"VC"が、衝動のまま"吸血鬼"と化す前に。
(……本当に、ただ無作為に"VC"を殺してる訳じゃないんだな)
須崎は他者の血を求める"吸血鬼"と成り下がった。
だから狩られたのだ。"ヴァンパイアキラー"に。
(ん? ということは、もしかして充希が声をかけてきたのは偶然じゃなくて……)
「あの彼、可哀そうだと思うかい?」
静かに落とされた問いに、思考が途切れる。
見つめる紫の瞳は、まるで監査官のそれだ。何に査定を下そうとしているのかなんて、微塵も読み取れない。
俺は一度瞼を閉じてから、口を開いた。
「いいえ」
言葉に強い意志を乗せて、真っすぐに見つめる。
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