ブラックメール

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「彼は二人もその牙にかけた、殺人犯です。"VC"である以上、彼もまたウイルス感染者という点においては同情の余地がありますが、己の意志で他者を噛んだ結果命を落としたという過程については、何一つ哀れむつもりはありません。……そうですね、唯一心残りがあるとしたら、被害者への償いをさせられなかったことぐらいです」  余韻を残すことなく消えた音。大通りから届く微かな走行音だけが、途切れては次を紡いでいく。  充希はたっぷりの間を置いてから、深い笑みを浮かべた。 「……いいねえ、巧人。そうこなくっちゃ」  ご機嫌な指先がマグカップを持ち上げる。  揺蕩(たゆた)うコーヒーの白い湯気が、ぐにゃりと歪んだ。 「キミとはコーヒーの趣味も合いそうだ。即席の"相方"だが、これからよろしく頼むよ。これはコンビ結成の祝いに」  充希は祝杯の如くマグカップを掲げると、残りを一気に煽った。空のカップを受け止めて、机上がコツリと乾いた音を鳴らす。 (……趣味も何も、ただ手軽で美味そうな機械選んだだけなんだけどな)
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