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黒のマジックで書かれた、『ヒト殺し』の文字。
ご丁寧に手書きでしたためてくれたようだが、走り書きもいいところだ。
「心当たりは?」
「ありすぎて検討がつきませんね」
「とはいえ、打つ手なしではないだろう? 巧人の後ろには巨大組織が構えている」
確信めいた問いに、俺は「……そうですけど、なんだか人聞きの悪い言い方ですね」とスマホを取り出した。
指定されている番号に、発信する。
「……野際です。事務所に不審な封書が届きまして。カメラの記録を確認して頂けますか? ……はい。現物は今夜そちらに。悪戯だといいんですけど、ちょっとタイミングがタイミングなので。……すみません、お願いします」
これでひとまずは、結果待ちだ。
通話を終えた俺に、充希が楽し気な視線を寄こす。
「巧人はどうみる? この差出人について」
「探偵でも分析班でもない俺には、さっぱりですよ」
「だが思うところはあるのだろう? 根拠も確証も何一つない、空虚の推理で構わないさ。なあに、僕は別に"正解"が知りたいワケじゃない。ちょっとしたホームズごっこさ。不思議な手紙が届くなんて、そう巡り合える事件じゃない」
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