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「巧人、巧人。いったんクールダウンだ。キミが彼女を大切に思っているのは分かるが、まずは話を聞こう」
「なっ」
なんて言い方をするんだ……! 間違ってはいないが俺はあくまで彼女を助けたいってだけで、それ以上の感情は……!
わななきながらも頭の隅で、熱がすっと下りていく感覚がした。
……確かに充希の言う通り、ちょっと熱くなっていたようだ。
「……すみません栃内さん。先走りました」
咳払いをひとつ。すかさず充希が、「キミも知っての通り、彼は真面目な男でね」と茶化した笑みを栃内に向ける。
「……いえ。こんな……私なんかに気を回して頂いて、ありがとうございます」
栃内が静かに頭を下げた。
顔を上げたと同時に小さく息を吸い込むと、「……実は」と苦笑交じりに切り出し、
「辞めちゃったんです、仕事。なので、気兼ねなく入院生活を楽しめることになりました!」
「……え?」
間抜けな声を上げた俺の代わりに、「おや、それはまた随分と思い切ったようだね」と充希が相槌を打つ。
「えと、その、本当に自主的に退職したんですか? 向こうからそうするよう、強要されたとかじゃなく」
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