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「はい。紛れもなく、私自身の意志で辞めました」
頷く彼女の声にも表情にも、嘘は感じられない。
困惑交じりに充希へと視線を遣ると、彼も小さく頷いた。
同意。つまり、彼女の言葉は真実だ。
だからこそ、わからない。
「どうして」
みっともなく焦りを滲ませながら尋ねると、栃内は「うーん」と逡巡してから、
「そうですね……"本当の自分に気づいたから"、ですかね」
赤い双眸が、窓際に飾られた花々を閉じ込める。
「目が覚めて、自分が"VC"になったって理解した時、"こんなのは私じゃない"って思ったんです。今までの"私"は殺された。これから待っているのは、私の身体を基にした"誰か"の人生だって。……でも、昨日充希さんとお話して、もう一回考えてみたんです。そしたらやっぱり、私は"私"でした。思考も、感情も、この身体で得るも失うも、全部"私"次第なんです」
「……なるほど。キミは強いな」
「お二人程じゃありませんよ。……私は"吸血"事件に遭遇しても、被害者に駆け寄るなんて出来ませんし」
「けど……っ!」
俺は微かな躊躇いを振り切り、
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