バーベナの決意

9/22

28人が本棚に入れています
本棚に追加
/254ページ
 面食らったように目を丸くしていた栃内が、ふと頬を和らげた。 「野際さんは、優しいですね」 「え……?」  その場凌ぎの慰めだと思われたのだろうか。紛れもない、真実なのに。  戸惑う俺から引き継ぐように、充希が口を開く。 「あまり立ち入ったことを訊くのもなんだけどね。キミのご両親は、今後についてなんと?」 「あ……私、両親はもう亡くなってて。五年前に起きた"VC"による通り魔事件で、噛まれたんです。私を守って。……二人とも"変異"に耐えられずに、その場ですぐに死んじゃったのに……私は何が違ったんですかね」 「簡単さ。キミは僕と出逢う為に生き残った。運命さ」 「ふふっ、そうみたいですね」 (……両親のことも話してくれた、か)  栃内紗雪、三十一歳。両親は五年前に神奈川で起きた"VC"による通り魔事件で死亡。事件のショックから、当時勤めていたアパレル会社を退職。  約一年間の精神科への通院を経て、拠点を東京に移し、半年後にここ新宿にて再就職。  勤務態度は良好。現在、恋人はなし。……姉弟も、なし。
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加