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面食らったように目を丸くしていた栃内が、ふと頬を和らげた。
「野際さんは、優しいですね」
「え……?」
その場凌ぎの慰めだと思われたのだろうか。紛れもない、真実なのに。
戸惑う俺から引き継ぐように、充希が口を開く。
「あまり立ち入ったことを訊くのもなんだけどね。キミのご両親は、今後についてなんと?」
「あ……私、両親はもう亡くなってて。五年前に起きた"VC"による通り魔事件で、噛まれたんです。私を守って。……二人とも"変異"に耐えられずに、その場ですぐに死んじゃったのに……私は何が違ったんですかね」
「簡単さ。キミは僕と出逢う為に生き残った。運命さ」
「ふふっ、そうみたいですね」
(……両親のことも話してくれた、か)
栃内紗雪、三十一歳。両親は五年前に神奈川で起きた"VC"による通り魔事件で死亡。事件のショックから、当時勤めていたアパレル会社を退職。
約一年間の精神科への通院を経て、拠点を東京に移し、半年後にここ新宿にて再就職。
勤務態度は良好。現在、恋人はなし。……姉弟も、なし。
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