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彼女は耐えられるだろうか。いや、耐えてくれるのだろうか。全てに絶望し、死を望んだ姉さんとは違って――。
ふと、扉が小さく鳴った。数センチだけ開けられた隙間から、廊下に立っていた警備員――清が顔を覗かせる。
「そろそろ時間です」
それだけ告げて、再び閉じられた扉。
「もうか。つい先ほど来たばかりの気分だ」
「本当に。もうそんなに話していたんですね」
「そうだ、花瓶の水を変えねば。さて、今日は僕が……」
「俺がやりますから、充希さんは大人しくしていてください。栃内さん、すみませんが、この人が余計な事をしないか見ておいてもらえますか」
「ええ、わかりました。ありがとうございます、野際さん。さ、充希さん。もう少し私の話相手になってください」
「僕ばかり役得ですまないね、巧人。店に戻ったら僕がコーヒーを淹れよう」
「……気持ちだけ貰っておきます」
立ち上がり、昨日俺が置いたままの花瓶を手に取って、水場へと向かう。
間仕切り用のカーテンは、今日も空いていた。後方からは充希と栃内の、名残惜しそうな会話が聞こえてくる。
洗面台も綺麗だ。慎重に花を抜き、水を捨てる。
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