バーベナの決意

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 妙なところはない。けどなんか、何だこの違和感は? 昨日とは、何かが――。 (……あ)  手が止まる。蛇口から流れ落ちる水の音が、鼓膜で妙に響いた。 (……目隠し)  洗面台上には、正方形の鏡がついている。そこに、布状の目隠しがついているのだ。  昨日はなかった。そっと指先で布を持ち上げて確認すると、上部を鏡に張り付けただけの、急ごしらえな仕様だ。  鏡に損傷はなく、汚れもない。  つまり、栃内の希望により、急遽付けられたのだろう。 (脱衣の際に気になった? それとも、別の理由が――?)  内側を清めた花瓶に新しい水を汲み、蛇口を止めた。薄く息を吐き出しながら、抜いていた花を再び活ける。  考えるのはここまでだ。後は、帰ってからにしよう。  思考を切り替えて水場から踏み出した俺に、気付いた充希が「助かったよ、巧人」と笑みを向けた。 「ありがとうございました、野際さん。そういえば、このお花ってなんという名前なんですか? 初めてみた花で」  質問を引き取ったのは、勿論充希だ。
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